負動産対策には総合的な土地対策が急務

法務省の法制審議会で、所有者のわからない土地の増加にどうすれば歯止めがかけられるのかについての議論が開始されている。
民間研究会の推計では、所有者がすぐにわからない土地が2016年時点で全国に約410万ヘクタールにも上るといわれており、なんとその面積は実に九州を上回るものとなっている。このまま何の対策も講じなかった場合、2040年には約720万ヘクタールにも増加する計算だ。
こうした所有者不明土地の増加により、すでに災害復旧や公共事業を進めるにあたり様々な支障が出ている。農地の規模拡大や大規模再開発なども難しくなり、また、固定資産税の徴収にも悪影響が出てくる。

この問題の背景としては土地を管理する手間や税負担を嫌って、相続の際に登記をしない人が非常に増えていることがあると考えられる。その証拠に、現在の登記簿の中には明治や大正時代に登記されて、そのまま放置されている土地が全国に2割以上あるといわれている。
法制審議会での検討で最大の焦点となるのは不動産登記の義務化である。実効性をどう確保するのかという問題はあるが、登記をする際の手数料を軽減することで今よりは登記申請が増えると考えられる。役所に提出される死亡届の情報をきちんと共有し、遺族に登記を促す仕組みも必要だ。

一方で、遠隔地にある親の土地のように、相続したとしてもコストなどがかかり、管理が困難な場合もあるのも事実である。
売却したくても買い手が付かない土地もある。いわゆる「負動産」である。
そうした場合には現在の民法では認めていない土地の所有権を放棄する制度を設けるかどうかなども大きな論点となる。
もし、放棄を認めるのであれば、その受け皿をどうしていくのかも併せて考える必要がある。その場合、国や地方自治体が公的な受け皿を整えることになるのであろうが、安易な所有権の放棄は非常に慎重な検討が必要と考えられ、現実の不動産取引の実情と勘案して、不公平の出ないようにしなければならない。
また、すでに放置されている土地をどうするのかも大きな課題である。国土審議会の特別部会では、土地の所有者が適切な管理を怠った場合にはその所有権を制限し、所有者の同意がなくても対策ができる方針を打ち出した。雑草による害虫の発生や犯罪の温床になるような場合を想定しているのである。
所有者または管理者が不明な土地家屋は荒れ放題になる傾向があるだけに、所有権の制限は有効な手段かもしれない。

今後は土地の協会などを確認する地籍調査も急ぐべきだと考えられる。1951年に始まったものの全国の半分程度でしか実施完了していない。
日本は今後、本格的な多死社会となっていく。これ以上「負動産」や「不明土地」などの問題が深刻化していかないように、あらゆる対策を総合的に実施していく必要がある。